前回(第4話)では、学会や講演会の裏側で営業が走り回っていた話を書きました。
このシリーズを読んで頂いている方々にはお気付きかと思いますが、私はMR(医薬情報担当者)です。
今回は私が15年やってきたMR(製薬会社の営業職)という仕事そのものが、静かに減り続けている——という話を、現場で感じてきた肌感覚のまま書きます。そして「自分はいつまで、この仕事で必要とされるのか」という、40代の正直な本音についても。
📌 この記事の結論
私のいるMRという仕事は、コロナ前から「もう要らないのでは」と言われ、コロナで一気に加速しました。①病院に自由に出入りできた時代は終わり、今はアポイントが当たり前 ②私たちが伝えられるのは決められた範囲の公式情報だけで、それはネットでも調べられる ③会社もコストの高い営業を減らす方向。だから私は40代の今、「会社にしがみつく」以外の道を本気で考え始めました。
この記事でわかること
- かつては、病院に「出入り自由」だった時代
- コロナが、流れを一気に加速させた
- そもそも、私たちが話せることは限られている
- ネットで足りるなら、わざわざ人に聞かない
- 会社も「コストの高い営業」を見直している
- それでも——40代の私が出した答え
かつては、病院に「出入り自由」だった時代
私がこの仕事を始めたばかりの頃は、今では考えられないくらい、おおらかな時代でした。
アポイントなしで病院の中まで入っていき、先生方が集まる部屋の前で待たせてもらう。空いた時間にちょっと声をかけてもらって、雑談から関係を作っていく。そんな働き方が当たり前でした。ひと昔前には、仕事終わりに先生方と食事を共にしながら、という文化があったのも事実です。
でも、それはもう完全に過去の話です。今はルールが大きく変わり、そうした付き合い方は一切できなくなりました。コンプライアンス(守るべき決まりごと)が年々厳しくなり、業界のルールでも社内のルールでも、線引きがはっきりしています。これ自体は、健全な方向への変化だと私は思っています。
コロナが、流れを一気に加速させた
「この仕事は、もう要らなくなるのでは」——実はこの声は、コロナよりずっと前から、業界の中でささやかれていました。それが、コロナ禍で一気に現実味を帯びました。
感染対策のため、病院への訪問は原則できなくなりました。そして流行が落ち着いたあとも、「会うにはアポイントが必要」という形が、すっかり定着しました。この方向性が、昔のような“ゆるさ”に戻ることは、もうないと思います。対面で顔を合わせる機会そのものが、構造的にぐっと減ったのです。
そもそも、私たちが話せることは限られている
ここはあまり知られていない部分かもしれません。MRが伝えられる内容は、添付文書や製品情報概要と呼ばれる、国の承認にもとづいて決められた資料の範囲に限られています。
その範囲を超えた話は、基本的にしてはいけないルールになっています。これは正しいルールで、守るべきものです。ただ、裏を返すと——私たちが伝えられる情報は、誰が聞いても同じ「決まった内容」だということでもあります。ここが、次の話につながっていきます。
ネットで足りるなら、わざわざ人に聞かない
その「決められた範囲の公式情報」は、今やインターネットで検索すれば、誰でもすぐに調べられます。
忙しい医療の現場で、わざわざ営業を呼び、時間を取って同じ情報を聞く——その必要性は、年々薄れていきます。同じ内容が画面ですぐ手に入るなら、人を介する理由は少なくなる。需要が静かに減っていくのは、ある意味で必然なのだと思います。私たちの存在価値が、問われている時代なのです。
会社も「コストの高い営業」を見直している
そしてこれは、会社側の事情でもあります。MRは、正直なところ人件費が高い部類の職種です。
対面の機会が減り、伝えられる情報がネットで代替できるとなれば、会社が「数を絞ろう」と考えるのは自然な流れです。実際、業界全体で営業の人数は、長く減り続けています。ここまでの変化を、ひと昔前と今とで並べると、こうなります。
| 観点 | ひと昔前 | 今 |
|---|---|---|
| 訪問 | アポなしで出入り自由 | 原則アポイントが必要 |
| 関係づくり | 食事を共にすることも | コンプラで一切なし |
| 情報の価値 | 人に聞くのが早かった | ネットで調べられる |
| 会社の方針 | 人を増やす | 数を絞る |
これは、誰か個人の頑張りが足りないという話ではありません。どれだけ真面目に働いても抗いにくい、「構造の変化」なのです。だからこそ、怖い。
それでも——40代の私が出した答え
正直に言えば、私自身、この仕事をいつまで続けられるのか分かりません。「もう要らないよ」と言われる日が、来ないとは言い切れない。40代に入って、その現実が、前よりずっとリアルに感じられるようになりました。
でも、ただ怖がって会社にしがみつくのは、なんだか違う気がしたんです。だから私は、会社の看板に頼らず、自分の手で小さく何かを育てることを始めました。このブログも、その一つです。いつ「もう要らない」と言われても、自分の足で立てるように。今の不安を、行動の原動力に変えてみよう、と思ったわけです。
同じように、自分の仕事の先行きにうっすら不安を感じている方は、きっと医療業界に限らずたくさんいると思います。構造が変わっていくのを止めることはできません。でも、その変化に備えて「自分のもう一本の足」を準備しておくことは、今日からでもできます。私はまだその途中で、答え合わせの最中です。
この連載の第1話では「会社依存の怖さと、40代で始めたこと」を、別の連載では収益ゼロからの試行錯誤もリアルタイムで書いています。同じような立場の方は、よかったらのぞいてみてください。
✅ この記事のまとめ
- MR(製薬会社の営業)は、コロナ前からの流れがコロナで加速し、静かに減り続けている
- 病院は「アポイントが必要」が定着し、対面の機会そのものが構造的に減った
- 伝えられるのは決められた範囲の公式情報だけ=ネットで代替できるため需要が減るのは必然
- 会社もコストの高い営業の数を絞る方向=個人の頑張りでは抗いにくい「構造の変化」
- 私の答えは、怖さを原動力に「自分のもう一本の足」を育てること(その途中です)
※本記事は、医療業界で働く一個人の体験と見解にもとづくものです。業界の状況には個人差・地域差があり、すべてに当てはまるものではありません。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。このシリーズでは、医療業界で15年働いてきたリアルを、できる範囲で正直に書いています。続きの更新は、また朝の時間にお届けする予定です。よかったら、のぞきに来てもらえたら嬉しいです。

